
■読者のページ〜2001年11月〜
翌日はバスツアーに参加し、モハーの断崖やバレン高原を見て回ることにする。大型バスを、ガイドを兼ねた黒髪で壮年のアイルランド人運転手が操る。いかにも生粋のアイルランド人といった様子で少々強面なのだが、なにくれとなく気を配ってくれ、やはり中身は親切なのだった。 さて、ゴールウェイ市街を出てしばらくすると、丘の上や森の中に崩れかけた石造りの建物や城らしきものが目につくようになった。夏の日中に見ても、うら寂しく荒れた印象をうける。ガイドで聞く歴史や謂われも、その思いを強くして儚い。夕暮れ時には、この世ならぬものが歩いていそうな趣である。 バスがゴラン高原に入ると、辺りは見渡す限りの石灰岩の丘陵となった。岩と岩の隙間に辛うじて土がたまり、そこに草がしがみつくようにして生えている。世界は、色のうすい空と灰色の岩石でできている。色をさすのは、所々に生えた草と、短い夏に咲く野の花ばかり。しかるべきところにバスが止まり、車を降りてみると渺々と風が吹いて髪をさらっていく。アイルランドが、岩石を覆う薄い土の上にできた国なのを実感する。 次に訪れたモハーの断崖は、大西洋に突き出た、海面から200メートルもの高さがある断崖絶壁である。高台に建てられたオブライエン塔から海を望む。北方から海を渡ってきた人々のことを思い浮かべる。海から吹き上がってくる風は容赦がなく、その風に乗って海鳥が空を舞っている。 アイルランドの風景を存分に堪能して、バスはゴールウェイに戻った。今日はここから西にあるクリフデン行きのバスに乗り、クリフデンから更に車で15分ほど行ったところにあるB&Bに泊まるつもりだ。観光案内所でバスの時刻と発着場所を確認して、バスを待つがなかなかやって来ない。少し不安に思っていると、定刻を少し遅れてマイクロバスが到着した。乗り込んだのは私と連れの二人きり、バスはさっさと発車し、みるみるうちにゴールウェイを離れていく。途中乗り込んできたのは、フランス人らしい男性が一人、彼は見渡す限りの丘陵地帯でバスを降りていった。丘の上に点在する家の一つが、彼の宿なのかもしれなかった。 バスは快調に飛ばし、私たちは座席から振り落とされそうになりながら外を眺めていた。道は湖沼地帯にさしかかり、大小の湖や沼の一つ一つが、うすい色の空を映している。この辺りにも羊や馬が放牧されていて、時に道の上を羊が歩いていたりする。その度にバスは止まって、羊が通り過ぎるのを待ち、また勢いよく走り出すのだった。 一時間ほどして、ようやくバスはクリフデンの町に到着した。バスを降りたところで、この日の宿の主人が車で待っていて、私たちを出迎えてくれた。この日の宿はなだらかな丘の上にあって、黒い屋根と白い壁が周りの景色に映えて美しい。宿へ入る小道の入り口に標識があって、ゲール語の宿の名前が青地に白で記されている。この辺りはゲールタクト、すなわち日常にゲール語を話す地域である。宿の名前の読み方を教わったが、初めて直に聞くゲール語、すらりと覚えられるものではないのだった。 夜、部屋の窓から眺める空はあいにくの曇天、辺りは真の闇である。ここで、アイルランドの星空が見られるかも、と思っていただけに残念。晴れていれば、どんな星座を目にすることができたのだろう。 翌日、美味しいアイリッシュ・ブレックファストをいただいき、早速、宿の周囲の散策に出掛ける。ついに降り出した雨にめげず、左の小道を行くと、柵で囲われた放牧場に行き当たった。遠くに佇んでいた三頭ばかりの馬が、私たちを見るとぴくりと耳を動かし、急に走り出す。怯えさせてしまったかと見ていると、柵のふちをぐるりと回って、私たちから10メートルほど離れたところにぴたりと立ち止まり、まじまじとこちらを見ている。見慣れぬ東洋人に興味津々なのだった。害意がないと見て取ると、柵の際まで寄ってきて観察にかかる。馬に見送られて歩き出すと、奥の放牧場には顔の黒い羊がわらわらと群れていた。あまりの可愛さに連れが走り寄ると、おしりを向けて一斉に逃げる逃げる。連れががっかりしていると、これまた一斉に立ち止まり、くるりと振り向くのには笑った。やはり、まじまじと見ている。私たちが帰る素振りを見せると、今度はそろりそろりと近づいてきた。馬も羊も好奇心いっぱいである。 放牧場を後にし、海岸へ向かう小道を歩き出す。強まる風とともに海が見えてきた。ゆるく湾曲した浜辺に波が打ち寄せている。うす翠色の美しい海だ。吹きつける風に飛ばされそうになりながら、波打ち際に寄る。海をさわって帰る。 クリフデンからゴールウェイ行きのバスに間に合わせるため、タクシーを呼んでもらって宿を出た。道々、女性運転手に日本の暑さの話をすると、冷房いらずのアイルランドの夏の話をしてくれた。暑い、と言えるような日は幾日もないらしい。クリフデンに着くと、彼女お勧めのパブの前で降ろしてもらう。ここで昼食をとり、バスの時間を待った。行きと違って帰りのバスは普通の観光バスがやって来た。行きと同じ道を戻っていく。途中、ラジオからクランベリーズの「Dreams」が流れてきた。アイルランドの音楽グループの曲で、日本でもよく知られた曲だ。少し嬉しくなって聴く。 ゴールウェイでバスを乗り継ぎ、ダブリンに戻る。流石に疲れが出て、連れともどもバスの中の殆どを眠って過ごした。ようやく着いたダブリンは、夜10時を回っていた。暮れかかる街中を、今夜泊まる予定のホテルを探して歩く。ようやく見つけたホテルは、黄味がかった柔らかな照明の中にぼんやりと浮かび上がっていた。
最後に訪れたのは、ケルズの書を蔵するトリニティ・カレッジである。ケルズの書の展示室は、多くの来館者で賑わっていた。人混みにまぎれて、ようやくケルト装飾の精華ケルズの書を目にする。あまりにかけ離れた連想かもしれないが、色彩の感覚がどこか密教美術に似通っている気がした。ケルズの書の展示室を抜けると、ロングルームといって、この大学の中でも古い蔵書を集めた図書館棟に行き着く。微かに古い本の匂いが漂っている。通路に展示物の入ったガラスケースがずらりと並ぶ。一角にはアイルランド最古のハープが展示されている。全てのアイルランド硬貨の裏に刻まれたハープのモデルである。 トリニティ・カレッジを見学した後、買い物を済ませて夕食をとる店を探すが、ちょうど時間がいいのかどの店も満席である。いくつかの店からは陽気な演奏が聞こえてくる。ようやく、空席を確保したイタリア料理店で食事を済ませて外に出ると、アコースティックギターを抱えた10代の男の子がパブの前で歌っていた。少し離れて聴き手が取り巻いている。なかなかの歌い手ぶりで、彼が「スタンドバイミー」を歌った時など、通りを歩いていた人たちが皆足を止めて聴き入っていた。歌が終わると、また人が流れていく。しばらく彼の歌を楽しんでホテルに戻った。これがアイルランド滞在最後の夜となった。 翌日は、いよいよ帰国である。朝早く起き出して、リフィ川にかかる橋を渡り、空港へ向かうバスが出るバス停まで歩く。通りを川風が通り過ぎていく。乗り込んだバスには、飛行機の添乗員らしい女性が二人乗っていた。バスがダブリンを離れていく。 ダブリン空港は、朝早い時間にもかかわらず大分混雑していた。分かりにくい航空会社のカウンターをどうにか探し当て、手続きを済ませて搭乗口に向かう。飛行機がヒースロー目指して飛び立った。窓から見下ろす緑の大地は次第に遠くなり、やがて視界から消えた。
藤田浩子さんをご存知でしょうか? 福島弁でほっこりあったかい民話を語る方です。News23で初めて見て、感激してぜひ一度生で聞くチャンスがあったらなぁ……と思っていたら、このおはなし会の情報を頂き、喜び勇んで行って来ました。 フランさん、とはフラン・スターリングさんのこと。アメリカでプロのストーリーテラーとして活躍されている方で、言葉の違いを超えて藤田さんとは同じ語り手として何年か前から一緒に活動をする機会を持っておられるそうで、今回はフランさんが来日、一緒に各地をまわっているのだそうです。 今回は、アメリカのたくさんのストーリーの中からいくつかを紹介してくださいました。まず、藤田さんが日本語で大筋を語ってくれ、そのあとフランさんが英語で全編を語ってくれましたが、英語がわからなくても話がわかる!いや、楽しめる!というところがとても素晴らしいと思いました。 話のほかに、オートハープの演奏、あるいは藤田さんとフランさんによる語りについての話し、アメリカと日本での手の表情の違い、などさまざまな話があり、とても興味深かったです。アメリカではストーリーテリングの全国大会があり、大の大人がそれを楽しみにしているということや、様々な職業をリタイヤした人がそこから勉強してプロのストーリーテラーになるということ、8割は女性で2割が男性だけれでも、小学校の教師の98%が女性なので、男性の語り手のほうが人気がある(!)らしいこと。なによりも、藤田さんとフランさんの楽しげな雰囲気がとても伝わり、私もとても楽しい時間をすごしてきました♪ まだ、聞けるチャンスはあるようですよ。これをごらんになったみなさんも、ぜひ体験してみてください! http://www.isseisha.net/event/event_flan_hiroko.html
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