■えるふ流読書法〜2003年10月〜

もともと人類の誕生とか、それにまつわる神話、伝説に興味があったので、『血族の物語』が出た時にすぐに読みはじめた。この本はピーター・デイッキンソンが1998年にイギリスで出版したものである。

彼の作品の日本で紹介されているうち、『エヴァが目ざめるとき』(徳間書店)、『時計ネズミの謎』(評論社)を読んでいたので出版されるのを楽しみにしていた。上下2册になっていて上巻は483P下巻は508Pという、今はやりの厚い本、けれど、沢田としきの絵も内容を充分に伝えているし、文字の組みもゆったりしていてとても読みやすかった。

今からおおよそ20万年前のアフリカ、私たちの最初の祖先が進化しようとしていた。やがて増えてきた彼ら現生人は集団で移動をくりかえし世界にちらばっていったとされている。そのある一つの集団“月のタカ族”の子どもが悪しきものに襲われ、良きところを目指して、いろいろ経験し、成長していく物語だ。

子どもたちのリーダーになる一番年上の少年スーズと、未来を予知する能力を持っているノリの話が上巻に、最初は部族に置き去りにされた幼い少年コー(誇り高い部族の男になるのが彼の望み)とやはり幼いために置き去りにされたマナ(たとえ悪しき者でも殺すことに恐怖と恐れをいだいている)の話が下巻にはいっている。その他、まだ歩けないくらい幼いノリの弟オータン、体が小さく痩せていて、顔に生まれつき障害のあるティヌ(彼女は道具を作ったり、使ったりするのが上手)など、足手まといになるので捨てられた“月のタカ族”の子どもたち6人と出会った他の部族の人たちとの物語が描かれている。

こう紹介するとジーン・アウル著『始原への旅立ち・エイラシリーズ』と同じような作品と思われるかもしれないが、『血族の物語』の主人公である力のない6人の子どもたちの小さな集団が旅をしていくなかで各々成長していく姿が描かれているが、エイラはあくまでネアンデルタール人の部族に助けられたクロマニヨン人の一人の少女の個人の成長の物語である。

また、この作品の中には上、下あわせて全部で19章のこの世のはじまりに関した小さな話が川のように流れていて、子どもたちの物語を豊かにしている。この19の物語だけを取り出して読んでもおもしろい。“黒レイヨウ”は“最初のものたち”の頭、何もない所に息を吹きかけて住む場所を作った。“ヘビ”“ワニ”“ハタオリドリ”“オウム”“アリの母”“太ったブタ”“月のタカ”“小さなコウモリ”たちは各々最初のよきところをつくったが“サル”だけは何もしなかった……。


この物語は著者の創作なのだがそれは充分に人類の物語になっている。火・人の起源・悲しみ・結婚・戦い・魔物・言葉・平和、人類が何を想い、何を願ってきたか、未来につなぐものとしての作者の言葉が読者の心と結びつく、その意味では昔話の形式をとっているが、きわめて現代的な物語といえよう。

神話や昔話が私たち の心をとらえてはなさないのはそれらが過去のことでなく未来の道筋を示していることにほかならない。

『血族の物語』ピーター・ディッキンソン作/斉藤健一訳/ポプラ社