■えるふ流読書法〜2003年7月〜

《先月の続き》

生まれてくるときに、人は誰でも自分の誕生を選択することが出来ません。時間も場所も状況も、こうありたいと願って生まれてくるわけではありません。

一方、現代では生むことの選択は出来るようになりました。何の関係もなかった男と女が家族という小さな社会の共同体を作っていく、けれど作られるものである以上、さまざまな家族が出来るのは当然ですが、社会の形態が変わってくると、その家族という形態も変化してくるのはいうまでもないことです。その一番の多いものは事故や災害であり、戦争でした。

『風に向かっての旅』では戦争でひとりぼっちになった少年が、おばさんとウィーンに逃れていく途中の物語ですが、最後にウィーンに辿り着き、おばさんは恋人が出来、新しい家族(?)になることが書き加えられています。

この作者ヘルトリングの作品のほとんどは施設の中の子ども、いわゆる障害児といわれる子ども、老人などの社会的弱者といわれている人たちを中心にして、その人たちが家族の中で、社会の中で差別や偏見を受けどう生きているかが書かれています。

『ソルジャー・マム』の主人公のように、今のアメリカでは共同体の中の宗教の持つ意味が変わってきているのでしょうか。家族をなくした子どもを引き受けてきた母体の家庭そのものがやはり変わってきている、兵士である母親は自分の仕事=自分の生き方のために恋人(夫ではない)との間に出来た赤ん坊を、恋人と前の夫との間の子どもに託して戦場に行ってしまいますが、恋人は恋人だから父親としての自覚が薄く、主人公はいやおうなしに母親の人生まで背負わされてしまうことになります。

『卵の緒』はへその緒が母子を結ぶものなら、へその緒を持たない母子、それの代わりの卵の緒(?)たまたま親たちが死んでしまったり、一緒に生活できない、一時期でも血の繋がらない者が家族になる、しかも子どもが親を支え自分の意志でその選択をする。

作者は若い世代なのですが、子ども(男の子)を主人公にして新しい家族の形をクールに描いています。それに人が生きている社会状況が全然描かれていない、つまり逆に今の時代の閉塞状況をあぶり出しているような作品だと思います。



『ブレイブ・ストーリー』
上・下
宮部みゆき
角川書店

『卵の緒』
瀬尾まいこ
マガジンハウス

『風に向かっての旅』
ヘルト リング
偕成社

『ソルジャー・マム』
アリス・ミード
さ・え・ら書房