| ★海からのおたより・17 〜2004年11月〜 ナミノコガイのはなし |
この秋、館山湾で小さな二枚貝が発生して話題になっています。
千葉県のレッドデータブック(絶滅の恐れがある種のリスト)で「要保護生物」として掲載されているナミノコガイが数十年ぶりに発生したと10月9日付けの「千葉日報」が報じました。「きれいな館山の海復活 絶滅危惧種ナミノコガイ発生」。さっそく我がファミリーは現地へ行ってみました。
ナミノコガイは2.5センチほどのスヌーピーの顔のような形の2枚貝です。私たちは数年前からたびたび殻を拾っていましたので大量に発生、とか数十年ぶりとかいってもピンときませんでした。ただ、1ヶ月ほど前に訪れたときにはいつもより新鮮な殻がたくさん落ちていて、殻をいくつか拾ってきていました。急に大量に発生するものかな〜半信半疑でいつも行く浜へとりあえず行ってみました。
10月10日、台風22号が去った後の海岸はたくさんの置きみやげがありました。風もなく波も穏やかで汐が引いた浜にはサクラガイなどの美しい貝がゴミとともに打ち上げられていました。ちょっと見ただけではナミノコガイの殻はいくつかあったものの、大量に発生したようには見えませんでした。
しばらくして子どもたちがナミノコガイの仲間のフジノハナガイが波打ち際で大量に砂に潜るのを見つけました。この仲間は波打ち際の砂の中にいて、汐の満ち引きで移動するのです。九十九里浜ではよく見かけますが、館山では初めてでした。ナミノコガイよりも小ぶり(1.2センチほど)で内側が紫色をしていて藤の花に似ている貝です。
砂に潜ろうとするフジノハナガイ
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少し離れたところで地元の夫婦が砂を掘っていました。近寄ってみるとバケツにはたくさんのナミノコガイが!おばさんは「味噌汁にすると独特の風味があって美味しいよ」と言います。おじさんは波打ち際に立って飛び出した貝を拾っていました。「9月から急に採れるようになったんだよ。むかしナミノコはいたが、最近は見かけなかったよ。館山湾の富士山の見える浜で採れると聞いたことがあるよ。若いのにナミノコ知ってんの?へえ〜。こっちのは違うんだよね(とフジノハナガイを指しました)」。
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| 子どもたちもおばさんたちと同じように波打ち際から少し離れた砂浜を掘ってみました。するとナミノコガイが次々と出てきました。かなり大きいものもあります。こんなことは初めてです。「手堀じゃ無理だよ」と言って持っていたアワビの貝殻をおばさんがくれました。「新聞にナミノコガイのことが載っていたよ」と話すとおばさんはびっくりしていました。
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ほんの少しですが、持ち帰ったナミノコガイとフジノハナガイをお味噌汁にしてみました。アサリよりもさっぱりしていて歯ごたえがありました。どちらかというと泥臭くないシジミのような感じがしました。絶滅危惧種を食べる、というのは驚かれるかもしれません。でも、海辺の生活は利用できるものは食べる、そんなものです。地元ではきれいな貝よりも食べられる貝に価値があります。試食ということで今回は特別
に食べてみました。
フジノハナガイとナミノコガイ 筋の入った大きめの貝がナミノコガイです
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休み明けに館山市に問い合わせてみると「ナミノコガイが最近になって見られるようになった」という市民からの連絡があって急きょ環境保全科で調査したそうです。私が住んでいた4年ほど前には見られなかった浜でもナミノコガイが確認されたそうです。急に館山湾がきれいになったわけではないと思いますが、貝の復活は嬉しいことです。貝はときに大発生したりするそうなのでナミノコガイ完全復活とは今はいえないかもしれませんが、彼らがこれからも生き残ってくれることを期待したいものです。
館山で「浪の子」というお店の看板を見たことがあります。対岸の神奈川県逗子市は徳富蘆花の「不如帰(ほととぎす)」の舞台です。ヒロイン浪子はナミノコガイから取った、という説があるそうです。市場には出ない貝なので一般には親しみのない貝ですが、一部の海辺の人たちには愛されてきた貝のようです。ナミノコガイは別名「ナミアソビ」と呼ばれます。波打ち際でエサを採るために波に乗って移動します。波の震動でいっせいに砂の中から姿を見せ、波に乗るさまは一瞬貝が砂から湧いたかのような錯覚がします。この仲間の貝が棲む浜は日本でも数カ所しか確認されていないそうです。埋め立てや水質汚染で絶滅が心配される中で今回の発生は楽しみなことです。またその現場が多くの人が住んでいる身近な海であったことは嬉しいことです。
それから2週間後に再び同じ浜に行ってみると、貝はいるもののはるかに少なくなってしまいました。それは度重なる台風の影響なのか、お味噌汁の具になってしまった結果
なのかは分かりません。これからも館山の海の小さな変化を気にしながらこの小さな貝たちを見守っていきたいと思います。
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