ベトナム便り〜2005年2月〜

★水の話

例年になく、晴天で暖かい日が続いているフエからの便りです。インドネシア沖で発生した大津波で、水の脅威を再認識させられ、幕を閉じた2004年。このニュースを見ながら、今月号では、「水と水上生活者の生活」について書くことを思いつきました。魚釣りや砂利採取など、仕事も“水”から切り離せないほど、水とともに暮らしている水上生活者。水が近くにあることは、便利なように思えますが、いいことだけではありません。子どもたちの健康や安全にも“水”は深く関わっています。
魚釣り

★泳げない川


フエに住み始めたばかりの頃、泳げるか聞かれ、泳げると答えると、「フォン川を何往復できるか?」と聞かれることが何度かありました。濁った川面を前に「この川で泳ぐの?」と逆に質問する私に、「20年位前は、夏になるとみんな川で泳いでた。」と昔を懐かしむ答えが返ってきました。今のフォン川は、水上生活者の子ども以外、誰も泳ごうとしないほど、年々、汚染が進んでいるのです。

★汚水は誰から?

水質汚染の話になると、必ずその要因として水上生活者があげられます。(実際には、工場や病院からの産業排水、不十分な下水処理なども、その要因なのですが)地元政府機関は、「水上生活者が定住化して、陸に暮らすようになれば、水質が改善される」と考えているようです。

しかし、水上生活者に言わせれば、「水質汚染の原因は、陸に暮らす人たちの生活廃水だ」となります。写真にあるように、彼らが暮らす川に向けて、絶え間なく流れる汚水を 目の当たりにすれば、一理ある主張だと言えますが……。

汚水

★トイレはどこで?

この汚水の流れ着く先では、母親が子どもを抱えて排泄させていました。終った後は、母親が川の水を手ですくい、子どものお尻を洗って完了。

写真のように、船からお尻を突き出して排泄する姿は見慣れていましたが、最後に川の水でお尻をぬぐう姿には、言葉が出ませんでした。

トイレ中

一緒に見ていた子どもたちは、「なに驚いてるんだ?」といった顔をしていたので、日常茶飯事の光景なのかもしれませんが、「これでは、子どもが伝染病にかかったり、お腹をこわしたりするのは無理ないな。」と、私は頭を抱えてしまいました。

だからと言って、岸にトイレを作ることは容易ではありません。以前、地元の大学生がの水上生活者に公共トイレを寄付しましたが、洪水によって、すぐに使えなくなり、残骸だけがむなしく残されています。仮に、何らかの工夫をして公共トイレを作ったとしても、彼らが、便利な船上トイレの利用をやめるとは思えません。すぐ近くの川岸にある公共水道でさえ、十分に活用できていない状況なのです。

★公共水道

川岸に公共水道が設置されるようになったのは、数年前から。海外NGOや政府機関の援助により設置された公共水道は、わずかな管理費を払うだけで、無料で自由に利用でき、水上生活者の生活改善に大きく貢献しました。(今でも、一部の地域には公共水道がなく、近隣の家から水を買っている水上生活者もいますが。)水汲みは子どもたちが担当している家庭が多く、写真のように、兄弟が協力して船まで運んだ水は、主に飲み水や料理用として使われます。
水汲み

しかし、野菜や食器を洗う、のには川の水を利用する家庭がまだ多いです。同様に、身体を洗ったり、洗濯したりする時も、すぐそばにあって便利な川の水が好んで使われます。その一方で、海外NGOや婦人会による啓蒙活動の結果、食器を水道水で洗い直したり、子どもが身体を洗うのには、必ず水道水を使うという人も増えています。

しかし、女性たちは、今もなお、人目につきにくい船上の一角で、川の水を使って身体を洗うことが多く、婦人科系の病気にかかる割合が高いと言われています。恥ずかしがり、病気を隠す人が多いので、公表されているデータは正確とは言えませんが、それでも4割を超えます。
川で洗濯

★水のためにできること


私は、水上生活者との対話を繰り返すことで、彼らが、川の水を「少々汚いものでも中和してくれる魔法の物体」と捉えているのではないかと思えてきました。だから、トイレとして、ゴミ箱として利用しても平気なのだと。正確に言えば、自分の行為が“少しは”川を汚していることは分かっている。でも、分かっていても、それらの行為をやめられない状況に置かれているのです。

そもそも「環境保護」という考えは、経済的に余裕のある人から生まれた発想です。その日暮らしで生きる貧しい水上生活者が、短期的な効果が見えにくい「環境保護」を優先した暮らしをするのは、無理な話なのです。そこでまずは、「環境保護」のためというよりは、自分や子どもの健康を守るため、川の水を「使わない」ことから始める必要があるように思います。自分や家族が、健康な生活を送ることができるようになれば、自然と、川の水を「汚さない」行為をする余裕が出てくるはずなので。水上生活者だけでなく、フエに暮らす全ての人々が、「いま、自分ができる“環境にやさしいこと”」を実行すれば、フォン川と水上生活者の暮らしはずっと良くなるでしょう。

★今月の行事:テト(旧正月)の準備


これは“行事”と呼べないかもしれませんが、1月はベトナム人にとって、テトの準備で忙しい時期です。陽暦の正月(1月1日)はあまり重要でないようで、大晦日に花火大会や歌謡ショーが開かれる程度です。今年のテトは2月9日。一ヶ月以上前からベトナム人との会話にはテトの話題が登場します。「テトは日本に帰るの?」「日本は陽暦の正月を祝うから、テトはないんです。だから、フエにいます。」「そう!じゃあ、家に遊びに来てね。」この会話はすでに何十回と……。

テトには親戚や友人、お世話になった人の家を訪問する習慣があり、しかも、外国人が来ると、その年、幸運がもたらされるという言い伝えがあるため、多くの人が招待してくれるのです。 そして、「テト用に新しい服を買った?」という質問も幾度となくされます。新しい服を着て新年を迎える習慣もあるからです。

貧しい水上生活者には、服を買うことができない人もいますが、昨日、新品の帽子をかぶっている子を発見。満面の笑みで帽子を自慢してくれました。お正月料理に関しては来月号でお伝えします。
新しい帽子なの!
古関 陽子 y_koseki@hotmail.com