■ボストン便り〜2003年7月〜

メモリアルドライブとGoose Xing


ボストン中心部はチャールズ川により二つの部分に分かれる。

チャールズ川の北側は ケンブリッジ市であり、南側はボストン市である。ケンブリッジ市にはハーバード大学、マサチューセッツ工科大学などの大学が立ち並び、ダウンタウンや金融街、メディカルエリアなどはボストン市に位 置する。

川の両岸はおよそ6つの橋で連絡され、ほぼ毎日のように渋滞を引き起こす。

川の北岸にはケンブリッジでは群れを抜いて広いメモリアルドライブという道が走る。この道はハーバードとMITを結び、いくつかの信号はあるものの中央分離帯で隔たれた片側2車線のバイパスである。

この道を特徴付けているものは、この道の低さである。これだけ広い道路であるにもかかわらず、低いところではチャールズ川の水面 からおよそ50cmほど上のところを 走るこの道は、単なるバイパスとして有用なだけでなく、健康のためならば脛骨の疲労骨折すら厭わないボストンのランナーの最も愛するマラソンコースでもある。

(Commentarii De Bello Bostoni, Gaius Iulius)

さて。

ボストンは観光都市的な側面もある都市です。独立戦争以来の名所旧跡は、ボストンの茶会をやった桟橋からワシントンが挙兵した広場、JFKの生家まで街じゅうにあります。町並みも他の近代的なアメリカの都市と違い、1800年代初期のアパートメントハウスの町並みが今でも健在で高級住宅街になっていたりして、京都と姉妹都市なのですが、まさにアメリカの古都という感じで観光客があふれています。町並みが美しく整備され、そのまま絵葉書になりそうな……実際にされて土産物屋で売ってますが……街路に事欠きません。

そのなかで、メモリアルドライブはボストンで私の最も好きな道です。比較的新しい道で、クラシックな建物が両側に並ぶ石畳の道、という感じではなく、あえて言えばバイパスに近い道なのですが。

ハーバードの脇の長閑な流れと川岸の公園。BUブリッ ジのオーバーパス付近から始まるMITのキャンパスと、10倍ほどに広がった川の対岸にそびえるダウンタウンの高層ビル街のコントラストは、たとえ夜中の2時ぐらいに一人大学から帰る時であっても、惚れ惚れするほど美しい景色です。

川岸には各大学のボートハウスやヨットハウスがあり、夏になると真っ白なセールが行き交う姿をの んびり眺めることもできます。冬は最も川幅が広く800m程にもなるHarvard Bridgeの付近も見事に一面 凍結します。

-10゜(華氏)程度に耐えられる防寒装備さえあれば、地吹雪が吹き抜けるチャールズ川越しに見る純白のダウンタウンの絶景を眺めることもできます。

ここで一休み

アメリカの温度は基本的に華氏です。華氏温度から32を引いて1.8で割ると摂氏です。

長さは1inchが25.4mm、12inchsが1footで30.48cm、3feetが1yard、1760yardが1mile

……何故「1760」yard?……

さらに。

1oz(オンス)が28.349g、16ozが1lb(ポンド)で4540g、1ton(米トン)が2000lbで907.2Kg、1pt(パイント)が0.473リットル、2ptが1qt(クォート)で0.946リットル、4qtが1gal(ガロン)で3.7853リットル。

なお、容積の単位はアメリカとイギリスで微妙に違います。この単位を日常的に使いこなせるアメリカ人を私はひそかに尊敬しています。日本がメートル法でよかった。

ボストンのチャールズ川といえば、マックロスキーの『かもさんおとおり』のクライマックスで、鴨のお母さんのミセス・マラッドが8羽のひなたちをつれて川の中州からパブリックガーデンまで行進をするシーンがあります。もう60年以上前のボストンを描いた話なのですが、ビーコン・ヒルの風景やロングフェローブリッジの姿はほとんど変わっていません。パブリックガーデンもほとんどそのままで、アメリカで最も古い?スワンボートも健在です。バックベイの町並みも、車のデザインとポリスマンの制服をのぞけば昔のままです。

そして今でもチャールズ川には鴨やアヒルがいっぱい住んでいます。結構図体も態度も大きなやつらで、えさを投げているといつのまにか集団に取り囲まれ、お茶目な子は背後からえさの袋を強奪していったりします。(噛まれるとちょっと痛いです。歯はないけど。あともう一種類、チャールズ川には7tonもある巨大なアヒルたちが住み着いています。これについてはまたの機会に)

鴨さんたちのお気に入りの公園の一つが、私がよくとおるBUブリッジのケンブリッジ側のたもとにあります。 ここには堤防らしい堤防はないので、川に住む鴨たちは気が向くと川岸の公園に上陸して、そのままどんどん道を渡って内陸部まで徒歩で異動したりしています。ところが川に沿ってメモリアルドライブが走っています。残念ながら交通 法規を良く知らない鴨さんアヒルさんが事故に遭うこともしばしばでした。

時として凶暴になる鴨さんアヒルさんたちですが、道路を並んでとことこ歩く姿は誠にほほえましいものです。彼らが痛ましい交通 事故の犠牲になっていることは、ボストニアンの心に暗い影を落としておりました。

2002年のある冬の日。

一人のおじさんが立ち上がりました。いつも鴨さんたちが横断するロータリーに、"Save the goose!"と書かれたプラカードをもって道行く車に一生懸命アピールをはじめました。寒風に耐えながら立ちすくむおじさんとそのプラカードは、ドライバーの目をつかんで放しませんでした。もっともこの週は寒かった2002-2003の冬の中でもとりわけ寒い記録的な豪雪の週で、諸方面 への運動の拡大を見るまでもなくおじさんのアピールは2日ほどで終わってしまいました。

雪が解けて、なかなか春にならないボストンも5月をすぎると急に日差しが強くなります。

そんなある日、この鴨さんの渡るロータリーに標識の設置工事が行われました。あのおじさんの熱意が身を結んだのか、鴨との衝突事故多発で車のオーナーから文句が出たのか……彼らの図体からすると、車にも結構なダメージが発生しそうです……ついに"Goose Xing"の警告標識が設置されることになりました。これで鴨たちも安 心して道を渡れることでしょう。

さすがに警察官のマイケルさんが交通整理をしてくれるわけではありませんが……。

(かもさんおとおり ロバート・マックロスキー 福音館書店刊)
(Commentarii De Bello Bostoni, Gaius Iulius 民明書房刊)

感想などお便りを下記あてにお送り下さい
ボストン在住ひいらぎさん一家
ami_tag@d1.dion.ne.jp